結論:強度区分は「2つの強度」を圧縮した暗号
六角ボルトの頭部には「4.8」「8.8」「10.9」「12.9」などの数字が刻印されています。これは「強度区分」と呼ばれ、たった3〜4文字で引張強さと降伏点(耐力)という2つの強度情報を表しています。
たとえるなら「輪ゴム」
ボルトの強さは、輪ゴムを思い浮かべると一気に分かりやすくなります。輪ゴムは、少し伸ばしても手を離せば元に戻りますよね。でも、伸ばしすぎると"ビヨーン"と伸びきって戻らなくなり、さらに引っ張るとプツンとちぎれます。
強度区分の数字は、この「ちぎれる強さ」と「戻れる範囲(粘り強さ)」を、たった数文字に圧縮した暗号なんです。読み方のルールさえ覚えれば、頭部の刻印を見るだけでそのボルトの実力がわかります。
読み方のルール
強度区分は「小数点の左(整数部)」と「右(小数部)」の2つの数字で構成されます。
整数部 × 100 = 最小引張強さ(N/mm²)
整数部 × 小数部 × 10 = 最小降伏点(N/mm²)
例:8.8の場合
つまり小数部は「引張強さの何割で降伏(変形)が始まるか」を表しています。8.8なら8割、10.9や12.9なら9割です。
主な強度区分の早見表
| 強度区分 | 引張強さ | 降伏点 | 材質の目安 | 用途例 |
|---|---|---|---|---|
| 4.8 | 400 N/mm² | 320 N/mm² | 低炭素鋼 | 一般機械、建築 |
| 6.8 | 600 N/mm² | 480 N/mm² | 炭素鋼 | 中荷重用途 |
| 8.8 | 800 N/mm² | 640 N/mm² | 中炭素鋼(焼入れ) | 自動車、産業機械 |
| 10.9 | 1000 N/mm² | 900 N/mm² | 合金鋼(焼入れ) | 高荷重・高振動部 |
| 12.9 | 1200 N/mm² | 1080 N/mm² | 合金鋼(SCM435等) | 超高荷重・キャップスクリュー |
ちなみに、ホームセンター等で売られている一般的な六角ボルトの多くは4.8相当。12.9は主にキャップスクリュー(六角穴付きボルト)で使われます。
なお、強度区分が変われば適正な締め付けトルクも変わります(同じM10でも8.8と12.9では締めるべき力が大きく違います)。サイズ・区分別の目安はボルトの締め付けトルク完全ガイドや締付トルク自動計算ツール(無料)をどうぞ。
ステンレスボルトは別ルール:「A2-70」の読み方
「SUSボルトに8.8ってあるの?」とよく聞かれますが、ステンレスボルトは強度区分の表記体系が別です。
| 表記 | 意味 |
|---|---|
| A2-70 | 材質:オーステナイト系(SUS304系) |
| A4-70 | 材質:オーステナイト系(SUS316系) |
| A2-70 | 強度:引張強さ700 N/mm² |
| A2-50 | 強度:引張強さ500 N/mm² |
つまり「A2-70」=SUS304系で引張強さ700N/mm²のボルト、という意味です。
見落としがち:ナットにも強度区分がある
ボルトだけ強くても、ナットが弱いとナット側のねじ山から壊れます。組み合わせの原則はシンプルで、ボルトの整数部と同じ数字のナットを選びます。
| ボルト | 合わせるナット |
|---|---|
| 8.8 | 強度区分 8 |
| 10.9 | 強度区分 10 |
| 12.9 | 強度区分 12 |
高強度ボルト使用時の3つの注意点
強度区分が高いほど強いのは事実ですが、「強い=常に正解」ではありません。
現場でありがちな失敗例
失敗①「とりあえず一番強いやつで」と12.9を指定 → めっき処理との組み合わせで遅れ破壊が発生し、かえって危険に。コストも数倍。
失敗② 10.9ボルトに手持ちの古いナットを流用 → ナットの強度不足でねじ山がなめて締結力が出ない。
失敗③ SUSボルトを「強そうだから」と高荷重部に採用 → A2-70の降伏点は8.8より低く、強度不足に。耐食性と強度は別物です。
まとめ:強度区分の選び方
「とにかく強いものを」と12.9を選ぶのではなく、設計荷重に見合った強度区分を選ぶことがコストと安全性の両立につながります。
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ボルト選定でお困りの際は、三和ファスナーの専門スタッフにご相談ください。
よくあるご質問
Q.ボルトの「8.8」という刻印は何を意味しますか?
A.強度区分です。整数部×100が最小引張強さ(8.8なら800N/mm²)、整数部×小数部×10が最小降伏点(8.8なら640N/mm²)を表します。
Q.ステンレスボルトに「8.8」の表記がないのはなぜ?
A.炭素鋼・合金鋼用の強度区分とは別の表記体系(A2-70など)を使うためです。A2が材質(SUS304系)、70が引張強さ700N/mm²を表します。
Q.強度区分10.9のボルトにはどのナットを合わせればいい?
A.原則としてボルトの整数部と同じ数字の強度区分のナット(10.9のボルトなら強度区分10のナット)を組み合わせます。ナットが弱いとナット側のねじ山から壊れます。
Q.迷ったら一番強い12.9を選べば安全ですか?
A.おすすめしません。高強度ボルトほど水素脆化(遅れ破壊)のリスクが高まり、トルク管理もシビアになり、価格も数倍になります。設計荷重に見合った区分を選ぶのが正解です。
この記事の監修

株式会社三和ファスナー創業者。2003年の創業以来、20年以上にわたりネジ・ボルト・ファスニング関連商品の販売と特殊切削加工に携わる。製造業・建設業向けの選定相談・トラブル対応を多数手掛ける名古屋エリアのファスニング専門家。
本記事は上記監修者の監修のもと作成しています。公開後の更新(数値の確認・表現の修正など)は、規格や公的資料をもとに編集担当が行っています。記載内容は一般的な情報であり、個別案件のご判断は必ず原典規格・図面に基づき、必要に応じて専門家にご相談ください。
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